『ドキュメンタリー WAVE スラム一斉撤去 ~ナイロビ グローバル化に翻弄される人々~』「市民の約半数、150万人がスラムで暮らすケニアの首都ナイロビ。去年暮れから政府が治安対策を理由にスラムの強制撤去を一斉に始めた。街には数万人が溢れ、疲弊した出身地の農村にも戻れず困窮状態に陥っている。その背景には、これまで低賃金労働力の供給源として膨張を続けてきたスラムが、急激なグローバル化で転機を迎えている状況がある。ケニア政府は年10%の経済成長を掲げ、海外からの投資を積極的に呼び込んでいる。低賃金労働力にもスキルや専門性が求められ、増加する一方の単純労働者は、これまで以上に厄介な存在になっているのだ。スラム跡地では、中国やインド企業が再開発の参入に向け活発に動き出している。四散したスラム住民は、どう生きてゆくのか。彼らの行方を追跡する日本の医療支援NGOの活動などを通し、新興国の都市スラムが抱える問題の真相に迫る。」
ケニアの首都ナイロビ。 朝の4時、毎日2万人の出稼ぎ労働者が、ケニア全土の農村から長距離バスで到着する。 受け皿となっているのは、人口160万人が暮らす 「スラム」 だ。
この50年間に、増加の一途をたどり、ナイロビ市民の半数がスラムの住人である。 最近は、若いサラリーマンや大学生も住むようになった。 しかし、そのスラムが今、政府によって次々に取り壊されている。
昨年11月から始まったスラムの一斉撤去で、既に5万人が住みかを失った。 「大統領なんか大嫌い。彼が死んだら、みんな喜ぶわ。」 「大統領を辞めさせろ!」 事前の説明や移転先もないまま、強行される撤去に、住民たちの怒りは頂点に達している。
首都ナイロビは、人口310万人。
近年、平均5%の経済成長率を遂げるケニアの中心都市だ。
観光や農業収入のみならず、外資系企業が参入し、グローバル化が進んでいる。 市内では、テロ事件が頻発しており、武装警官が配置され緊張感が高まっている。 政府は、スラムがテロの温床になっているとして、昨年末、スラムの一斉撤去を閣議決定した。 既に、4ヵ所、今年中に全てのスラムが撤去される。
100万人が住むキベラスラムは、世界最大級だ。 100人ほどの武装警官が見張る中、ショベルカーが家々を壊していった。
私財を投げ打って造った家も、店も、学校も、事前通達なしに壊された。 住人が職場から駆けつけた時には、全てが無くなっていた。 家財道具も思い出の品も取り出すことさえ出来なかった。
12歳の少年が言っていた。 「ここが寝室、こっちがキッチン。ショベルカーの人は、自分の家じゃないから壊せるんだ。何も言わないで壊すなんて酷いよ!」
「NPOチャイルドドクター」 代表の富田久也さんは、スラムで5年以上、子供たちを治療してきた。 無料で医療を受けられる独自のシステムを導入し、日本の30倍だった子供の死亡率を激減させた。
そのシステムとは、日本の人に、月1000円の寄付を募り、1人の子供を援助してもらうというもの。 一対一で、お互いの顔が見える持続可能な医療支援活動だ。
「NPOチャイルドドクター」 ナイロビ事務所では、撤去で散りじりになってしまった、援助してきた1500人の子供たちを捜索活動をしている。 スラムは、ナイロビ市内だけで、128ヵ所ある。
ケニア人ジャーナリスト・ハンフリーの話。 「なぜスラムが拡大したかというと、政府が1973年に公共住宅の建設をやめてしまったからです。現在のナイロビの人々は、当時の15倍も増えているのに何の対策もしていないのです。民間住宅の家賃は高くて、貧しい人々には手が届きません。政府の長年の無為無策の結果が、このひどい有様なんです。」
無関心な政府に代わってスラムの環境を整えてきたのは住民たち自身だった。
自治組織を作って学校を運営するなど、人々の自助努力が住民を支えてきた。自営業を営む人も多く、経済活動も活発に行われている。
低賃金労働者を供給し、ナイロビの発展を支えてきたのもスラムだった。
ハンフリーは、 「スラムの撤去は、テロ対策ではない!」 と断言する。 「政府がスラム撤去に乗り出した本当の狙いは、スラムの再開発なのです。長年、住民を追い出そうとしてきたが簡単にはできなかった。だから、テロ対策を格好の口実にして強制撤去を始めたのです。」
撤去が行われた 「キベラスラム」 に、スーツ姿の集団、 「KENSAP(ケニア・スラム・アップグレード・プロジェクト)」 が視察に来た。 スラム跡の再開発計画を話し合うため、住宅省の役人や政治家、地域の代表などの30人だ。
4年前に策定された国家プロジェク ト「ビジョン2030」 とは、2030年までに、国際競争力のある豊かな国家を築き、新興国の仲間入りを果たすというものだ。 年に10%の経済成長率を掲げ、外資の積極的な導入を打ち出した。
「ナイロビ都市開発省」 には、立派なハードカバーの分厚い計画書と、A2判ほどの精巧なカラーパースがあった。 この都市開発のコンペには、世界24ヵ国のデベロッパーが参加した。 そして、インド、シンガポール、イスラエル、ドイツの案が採択された。
ナイロビ市長、ジョージ・オムウェラに話を訊いた。
「スラムの住民はどうなるんですか?」
「我々には関係のないことです。ナイロビに住めない人は地方に帰るしかないでしょう。ナイロビをロンドンやアメリカや中国のような先進国並みの都市にしたいのです。新しい住宅やオフィス、学校、交通網、医療施設など、全てが揃った近代都市です。ナイロビの発展は急速に進み、国内外から優秀な人材も集まります。」
撤去後のスラムには、有刺鉄線が張られ、無断で立ち入った者には、禁固刑が課せられることとなった。 富田さんは、 「人間のすることとは思えない。気が狂いそうになる。」 と仰っていた。 それでも、引越し費用を肩代わりするなど、医療を超えた支援をし、100世帯の家族を援けた。
ケニアの再開発プロジェクトの7割は、外資系企業が担っている。 キベラスリムの跡地の建設には、インドと中国のゼネコンが熾烈な入札競争を繰り広げた。 ナイロビ市内の高層マンションを建設したのは、中国の国有企業である。
格差が広まる一方のケニアでは、富裕層の需要を狙ったビジネスチャンスが訪れ、膨大な投資マネーが流出している。 今では、ケニアの住宅建設の6割を中国が占めている。 隣国まで伸びる国道も中国が請け負っている。
「最初に言いたいのは、ケニアのスラムでは、このような出来事は、日常茶飯事なんです。皆さんは、家や財産、人の暮らしが根こそぎ破壊される現場を見たでしょ?でも、どれほど多くの人がいなくなったのか、住んでいる人ですら分らないんです。撤去の時も、皆、右往左往するだけで、本当の理由は知らされないのです。翌日になっていなくなった人に気づき、初めて何が起こったかを知るのです。」
「NPOチャイルドドクター」
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